てづくり体験
6月は大変な月だ。梅雨が始まるからとか、そんなんじゃない。カレンダーを見て愕然とした。連休がないんだ。
「何か楽しいことしたい。どっかに行きたい」
「わかる。いつもと違う楽しいことしたいよね」
私の嘆きに、久々に会ったお姉ちゃんみたいな友達、里沙ちゃんはこううなずいてくれた。
「でもさ、高校生の私にはお金もないし、手軽にできることなんて思いつかないよ」
「真帆ちゃん、友達とは遊ばないの?」
「みんな部活で忙しそう」
「彼氏とかはいないの?」
「そういうの、興味ない」
せっかく兄の彼女である里沙ちゃんが連れて来てくれたおしゃれなカフェなのに、私みたいな暗い顔の女子高生は全然なじまない。
「じゃ、二人で日帰り旅行でもしない?」
と、この里沙ちゃんの一言で、私達は初めていっしょに遠出することになった。行き先は、東かがわ市。今年から社会人になった兄が、遠距離恋愛になる直前にプレゼントしたのがリストマフラーというもので、その工房がある街だとか。
「私も働き始めてから、なかなか友達と予定合わなくて」
そう言いながら見せてくれた赤いリストマフラーは、やわらかい素材のリストバンドだった。
「これをもう一つ買いに行くってこと?」
「それもいいんだけど、ウェブサイト見たら、てづくり体験もできるみたいでね。おもしろそうじゃない?」
「てづくり体験ってことは、自分のを自分で作れるってこと?」
「そういうことだね」
急に前のめりになった私に、里沙ちゃんはクスリと笑う。
私達はすぐに工房に問い合わせ、運よくすぐに予約が取れた。遅くはなるけど日帰りだし、里沙ちゃんのことはお母さんもよく知ってるしで旅行の許可もすぐ取れた。
朝一番の長距離バスに二人で飛び乗り、いざ東かがわ市へ。私史上、最高に文化的な小旅行。大阪からだと、数時間で着いた。
そして、昼ご飯のうどんをゆっくり味わっていたら予定の時間ギリギリになってしまったけれど、私達はなんとか工房にたどり着いた。
「私、ものすごく不器用なんですが、できますかね?」
不安を口にすると、手袋職人さんの藍子さんは「大丈夫」と笑顔を見せてくれた。
「そんなにかたくならないで。まっすぐ縫うだけだから」
職人見習いの海香子さんもそう言って傍で見守ってくれた。
てづくり体験が所要時間約4時間と聞いた時には、最初は大変だなと思ったけれど、終わってみればあっという間だった。この世でたった一つの私だけの青いリストマフラーは、ちょっと縫い目が曲がっているけれど、とてつもなく友達に自慢したくなった。
「いろいろ手袋の話も聞けたし、こんなに充実した時間、久しぶりだったな」
里沙ちゃんは、レンガ色のリストマフラーを手に、目を細める。
「うん、楽しかった」
てづくりって、いいな。てづくりって、心も満足させてくれるんだ。
帰りのバスは、防寒のために持ってきたパーカーを着てもエアコンが効き過ぎていた。でも私達は大丈夫。手首っていうほんの小さい面積をリストマフラーで覆うだけで、寒さは随分とやわらいだ。