いつも手元に
祥吾とは大学に入ってすぐ付き合いだしたので、もう4年になる。恋人であり、大親友っていう言葉が私達にはぴったりだった。仲直りできるって確信がお互いあったから、大喧嘩だってできた。言いたいことは、何でも話してきたと思う。
大学を卒業しても、一日に一回は連絡を取り合って、週に一度はデートして……いつまでもこんな日々がつづくものと信じてた。でもまさか、彼が就職で遠くへ行ってしまうなんて。会おうと思えばいつでも会える距離にいたのに、これからやっていけるのかな。
「里沙、これ、香川のお土産」
祥吾が大阪を離れる前日、いつも待ち合わせするカフェで渡されたのは、リストマフラーという両手首に着けるものだった。私の好きな、赤。
「親父とツーリングしてきたんだ。親孝行のつもりでついて行ったのにさ、手袋屋でマフラー買ってもらった」
見たことないのをしているなと思ったら、お父さんにもらったものだったんだ。童顔の彼の顔が、いつもより大人っぽく見える。
「香川って、手袋が有名なの?」
お土産は私もマフラーがよかったなぁ、なんて思いながらリストマフラーを付けてみた。
「130年の歴史があるとか聞いたよ」
「そうなんだ……あっ」
「どうした?」
「これ、すっごく手触りいいね。それにあったかい」
「まだ10代の若い職人さんが修行しててさ、俺も頑張ろうって思った」
そう言った祥吾の視線は、私を通り越し、これから広がる彼の未来に向かっていた。
寂しいな。行ってほしくない。
いつもなら何でも言えるのに、声には出せなかった。だって、ずっと入りたいって言ってた会社に就職できたんだよ。恋人の私が困らせるわけにはいかない。
「これ、大事にするね」
飲みかけの紅茶をのぞき込み、自分の顔を見つめる。私、笑えてるかな。応援できてるかな。不安でしかたなかった。
その日から、私は毎日のようにリストマフラーを着けた。もう季節は春も終わりだけれど、ジンと冷える日がつづいたこともあって、自分の部屋でも手放さなかった。
思えばもらったのがリストマフラーでよかったと思う。マフラーよりも、気軽に室内で着けられるし、何よりいつでも目に入る。ずっといっしょだった大学時代の彼みたいに。
「3年後ぐらいには、大阪に戻れるらしいよ」
遠距離になって1か月後、祥吾はスマホのディスプレイ越しにそう言った。あれ、ちょっと顔が丸くなった気がするんだけど、おいしいものでも食べてるのかな?
「えっ、3年もそっちなの?」
ほんとはずっと行ったままだと思ってたから、嬉しくて嬉しくて、でもそれを悟られたくなくて、両手で顔を隠す。
「これの洗い替え、ほしいんだけどなぁ」
「はいはい、わかったよ」
苦笑いする祥吾。私はそっと、手元の赤に頬を寄せた。