汚れても大丈夫
「洗剤」といっても、いろいろある。お風呂用、トイレ用、食器用に車用、女性なら重宝するのが血液用なんてのも。何にでも使える万能な洗剤もあるけれど、私は用途に応じて使い分けるのが好きだ。理由は、効果が高そうっていうより、その方がワクワクするってのが一番大きい。
最近新しく買ったのは、「手袋専用洗剤」だ。もちろん他の衣料にも使えるけどね。ママ友の円花さんに教えてもらったのだ。
数日前、私と娘の結衣は、近所の公園に遊びに行った。子どもって寒くても平気で外で遊ぶんだから不思議だ。自分もそうだったかな、と思い返してみたけれど、私は家でピアノをひいてばかりだったな。
「ママー」
4歳の結衣は、特別用事がなくても私を呼ぶ。私は公園の小高い丘の上に向かって大きく手を振る。
いつも見ていてほしいんだろう。微笑ましくも思うけれど、それが5分おきだとけっこう疲れたりもする。けれど、お友達の千尋ちゃんと遊んでいる時だけは、その感覚がぐんと長くなる。
「ママー」
あれ、さっき呼ばれたところなのに。
見ると、声の先で結衣が転んでいた。泣きそうではあるけれど、泣いてはいない。
「ママー」
もう一人で起き上がれるというのに、結衣は転んだ体勢のまま、動こうとしない。その横で、千尋ちゃんが心配そうに立ったりしゃがんだりしている。
「私、バンドエイド持ってるよ。傷口洗いに行こっか」
円花さんはそう言いながらも、笑いをこらえていた。そう、結衣は大丈夫なのだ。でも、自分で立ち上がるのが嫌なのだ。
時間が経てばあきらめてすぐに走り出すのはわかっていたけれど、おろおろしている千尋ちゃんに申し訳なくて、私は小走りで結衣の元へ向かった。
「どこか痛いところ、ある?」
もうすっかり重くなった結衣の体を、ゆっくり持ち上げる。
「なーい」
助けに来るのが遅いと言わんばかりに、結衣は口を富士山みたいにしながら答えた。
「ちーちゃん、行こう」
けれど、すぐに機嫌を直し、二人で行ってしまった。
手元を見て、びっくり。助け起こす時に地面を触ってしまったんだろう。前日の雨のなごりがお気に入りの手袋にべっとり付いていた。
こういうわけで、手袋専用洗剤を、円花さんに教えてもらったのだ。
「なんかその石鹸、いい匂いするね」
洗面所で手洗いしていると、結衣がやってきた。
「こうやって汚れちゃっても大事に洗って、乾いたらまた、手を守ってもらうんだよ」
結衣は「ふーん」とだけ言った。
きっとすぐに大きくなるんだろうけれど、まだ当分は手袋専用洗剤にお世話になりそうだな、と思った。