VOL .21

汚れても大丈夫

「洗剤」といっても、いろいろある。お風呂用、トイレ用、食器用に車用、女性なら重宝するのが血液用なんてのも。何にでも使える万能な洗剤もあるけれど、私は用途に応じて使い分けるのが好きだ。理由は、効果が高そうっていうより、その方がワクワクするってのが一番大きい。

 最近新しく買ったのは、「手袋専用洗剤」だ。もちろん他の衣料にも使えるけどね。ママ友の円花さんに教えてもらったのだ。

 数日前、私と娘の結衣は、近所の公園に遊びに行った。子どもって寒くても平気で外で遊ぶんだから不思議だ。自分もそうだったかな、と思い返してみたけれど、私は家でピアノをひいてばかりだったな。

「ママー」

 4歳の結衣は、特別用事がなくても私を呼ぶ。私は公園の小高い丘の上に向かって大きく手を振る。

いつも見ていてほしいんだろう。微笑ましくも思うけれど、それが5分おきだとけっこう疲れたりもする。けれど、お友達の千尋ちゃんと遊んでいる時だけは、その感覚がぐんと長くなる。

「ママー」

 あれ、さっき呼ばれたところなのに。

 見ると、声の先で結衣が転んでいた。泣きそうではあるけれど、泣いてはいない。

「ママー」

 もう一人で起き上がれるというのに、結衣は転んだ体勢のまま、動こうとしない。その横で、千尋ちゃんが心配そうに立ったりしゃがんだりしている。

「私、バンドエイド持ってるよ。傷口洗いに行こっか」

 円花さんはそう言いながらも、笑いをこらえていた。そう、結衣は大丈夫なのだ。でも、自分で立ち上がるのが嫌なのだ。

 時間が経てばあきらめてすぐに走り出すのはわかっていたけれど、おろおろしている千尋ちゃんに申し訳なくて、私は小走りで結衣の元へ向かった。

「どこか痛いところ、ある?」

 もうすっかり重くなった結衣の体を、ゆっくり持ち上げる。

「なーい」

 助けに来るのが遅いと言わんばかりに、結衣は口を富士山みたいにしながら答えた。

「ちーちゃん、行こう」

 けれど、すぐに機嫌を直し、二人で行ってしまった。

 手元を見て、びっくり。助け起こす時に地面を触ってしまったんだろう。前日の雨のなごりがお気に入りの手袋にべっとり付いていた。

 こういうわけで、手袋専用洗剤を、円花さんに教えてもらったのだ。

「なんかその石鹸、いい匂いするね」

 洗面所で手洗いしていると、結衣がやってきた。

「こうやって汚れちゃっても大事に洗って、乾いたらまた、手を守ってもらうんだよ」

 結衣は「ふーん」とだけ言った。

 きっとすぐに大きくなるんだろうけれど、まだ当分は手袋専用洗剤にお世話になりそうだな、と思った。

「佩」とは

佩(ハク)とは、江本手袋が「喜び合える手袋づくり」を目指して取り組む手袋ブランドです。

職人を守り育て、地域の手袋づくり文化を未来へと受け継いでいくために、扱う素材、デザインの考え方、色展開、つくる量、手袋職人の社会的地位、そして地域との関係性など、これまでの手袋づくりの全てを見直しました。

江本手袋に勤める65歳の職人は、中学卒業からずっと手袋を作り続けています。

佩は、このような本物の職人たちの手仕事をお届けします。

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