サンタクロースは皆勤賞
小学校4年生の時、お母さんに聞いてみた。
「サンタクロースって、お父さんなんでしょ?」
お母さんの表情、一瞬でも固まるかと思ったのに、そんなことはなかった。
「信じてないの?」
「だって、友達みんな言ってたもん。親だって」
サンタクロースの存在を信じてるって言ったら、友達にあきれられたのがちょっと恥ずかしかったのを、今でも覚えている。でも、お母さんはまじめな顔でこう言い放ったんだ。
「真帆、いいこと教えてあげる。サンタクロースはね、信じている人にしか来ないんだよ」
何が言いたいのか、その時の私にはよくわからなかった。けれど、一つ確信したのは、信じている……正確には信じているふりをしていなければ、プレゼントはもらえないということだった。
「信じてる。信じてるよ!」
今思えば、この策略を、お母さんは見破っていたと思う。
「それがいいと思うわ」
こんな会話をしてから、5年が経った。私は中学三年生。もうほとんど大人だ。
けれど、今も毎年欠かさず、サンタクロースは私の元にやってくる。
小学生までは、クリスマスイブの夜には靴下をつるしたりした。いつもはいているハイソックスに穴を空けて紐を通し、お母さんに怒られたっけ。でも、翌日のクリスマスには、ちゃんとそこにはキャンディがいくつも入っていて、ものすごく嬉しかったなぁ。あんなにワクワクする朝は、一年のうちでクリスマスくらいだった。
私は今もサンタクロースを信じている、ということにしている。
もう靴下はつるさないし、今年あたりから来なくなるんじゃないかと近年はソワソワしたりもするけれど、うちのサンタクロースは皆勤賞だ。去年のクリスマスの朝は、いつもならワクワクするのに、ホッとしたっけ。
今年もクリスマスがやってきた。この日だけは、毎年どんなに寒くてもスッと起きられるから不思議だ。
勉強机の上に見慣れない包みがあった。今年は何だろう。
それは、赤いレッグウォーマーだった。ズボンの下にもはけそうな、スリムタイプのもの。これなら外にも気軽にはいて行けそうだ。
「今年は何だったの?」
ドアから、お母さんが顔を出す。
「サンタクロース、私が冷え性だって知ってたみたい」
「長年、真帆はサンタクロースを愛してるからだろうね」
お母さんの言葉は、妙にしっくりきた。そうか、私はサンタクロースを愛してるんだ。信じてるというより。
「ありがとう!」
階段を降りていくお母さんの足音が、ピタリと止まる。
「サンタクロースに伝えとくわ」
部屋にいても指先が冷えるような寒い朝に、お母さんの温かい声が広がった。
それにしても赤いレッグウォーマーって、なんだかサンタクロースの愛用品みたいだな。そう思うと、今年のクリスマスの朝はいつもより心がくすぐったかった。