おばあちゃんへのプレゼント
「明日、おばあちゃんちに行くけど、いっしょに行く?」
金曜日の夜、お母さんがキッチンから顔を出した。ちょうどパスタを茹で終えたみたいで、キッチンにはもくもくと湯気が立ち込めていた。
「うーん、私はいいや」
リビングのソファは、私の一番のお気に入りスペース。学校から帰ってきたら、まずはスマホ片手にここにおさまっている。
「おばあちゃん、海香子に会いたがってたよ」
お母さんはそう言って、皿に盛りつけたパスタを運んできた。
おばあちゃんちは、近所だ。歩いて行くにはちょっと遠いけど、それでも車で20分ほどの所にある。小さい時は、おばあちゃんちに行こうと誘われれば「行く」と即答していたのに、いつからついて行かなくなったんだろう。行こうと思えば一人でも行けるくらい成長したからかな。学校の勉強とか、友達との遊びとかに忙しくなったことも理由の一つかもしれない。何にしろ、近年は一年に数度しか会わなくなっていた。
「また、近いうちに会いに行くよ」
会いたくなったらいつでも会えるしね。私はいつも通り、こう答えた。
その一か月後、おばあちゃんが入院した。
「軽い肺炎なんだけど、大事をみることにしたの」
お母さんは、病院で必要な書類やコップやパジャマなんかをそろえるのに忙しそうだった。
私もお見舞いに行って、お正月ぶりにおばあちゃんと会った。
「学校は、楽しい?」
なかなか顔を見せない孫に怒ることもなく、笑顔で話しかけてくれた。ずっと見てきた、やさしい顔だった。けれど、驚いた。おばあちゃんって、こんなに小さい人だっけ。もっともっと、私がすっぽり入るくらい大きな人だったはずなのに。
「うん、楽しいよ」
久しぶりすぎて、他に何を話したらいいかわからない。でも、黙っていっしょにお茶を飲んでいるだけで、何か会話できているような気がした。
おばあちゃんは、すぐに退院した。お母さんからそれを聞いて、ホッと胸をなでおろす。
これからは、たまには会いに行こう。一人でも、行こう。
そう決めたのに、いざとなると何か理由がほしくなった。
そうだ。今月は敬老の日がある。何かプレゼントを持っていくのはどうかな。おばあちゃんは冷え性だから、手袋がいいかもしれない。何色がいいかな。見たら元気になれる色がいいよね。それなら赤がぴったりかも。単に私が好きな色ってのもあるけど。
私はいつものソファに正座し、スマホを見つめる。
おばあちゃん、喜んでくれるかな。