江本手袋が80年続く理由
佩(ハク)について
1939年に創業した江本手袋は、香川県東かがわ市引田で手袋を作り続けて2020年で81年目を迎えます。
80年以上続く企業になった理由、それは先人の手袋産業発祥の精神と、江本手袋の創業の精神が引き継がれているからだと思います。
香川と言えば讃岐うどんが有名で東かがわ市にもうどん屋さんがたくさんありますが、実は香川県は全国シェア90%とも言われる手袋の産地なのです。
では、なぜ東かがわ市に手袋産業が根付いたのか。
約130年前、これと言った産業のないこの地域は生活が不安定でした。地域の生活を安定させる仕事を作りたいという谷次辰吉氏の志によって「手袋作り」がこの地域にもたらされたのが始まりです。
江本手袋の創業者である江本綱太郎は、親戚の営む手袋メーカーに勤めていましたが、そこでの社風が自分とは合わないと感じていました。ならば自分の家族や地域の生活を守る、理想の「人を大切にする会社」をつくろうと決意し、家族、親戚、近所の人と共に『江本手袋製造工場』を創業します。
「家族や地域の生活を守る」ために創業した江本手袋。その思いは私の父である二代目にも受け継がれていました。
二代目である社長の仕事の一つに「外注さんに仕事を持って行って他愛もない話をする」ということがあります。外注さんなので、常に社内で顔を合わせることはありません。その分、コミュニケーションの一つとして、仕事の話をしながらも近況を聞いて、一緒の時間を過ごすということをとても大切にしていました。
そんな二代目からは常に言われていた言葉があります。それは
『外注さんの仕事だけは切らすなよ』ということです。
今、江本手袋があるのは外注さんと社員のおかげであり、だからこそ、今いる人たちを裏切るようなことはするな、生活を守ることを考えろ、と教えられてきました。
地域の地場産業として栄えていた「手袋産業」も、時代が移り変わるにつれて、多くのメーカーが海外に拠点を移していきましたが、江本手袋は地元での手袋づくりを続けました。
量販店などから大量注文があっても、地域の人たちで手袋を作る。これが80年間続く江本手袋の想いなのです。
これまで、社会の変化で手袋の注文が無くなり、危機的状況に陥ったことは何度もありました。その都度、色々な方々に助けられ、おかげさまで80年前と変わらず、今も地域の人々とともに手袋づくが出来ています。
もちろん、今後も海外に生産拠点を移すつもりはありません。でも、社員や外注さんの高齢化は進んでいます。だからこそ、次の世代の『手袋職人』を育てていくことが新たな使命だと思っています。
手袋を通して、地域の生活を守っていく。
この思いがあったからこそ、80年続く会社になったのだと思います。
江本手袋 三代目 江本 昌弘