VOL .38

もう怖くない

初めて「とらまるパペットランド」に行った時のことは、今でもよく覚えてる。中でも「とらまる人形劇ミュージアム」は、様々な人形を見ることができ……とにかく怖かった。

「海香子、ほら、これはテレビに出てた人形なんだって」

 ただただ人形と目を合わせないために、楽しそうなお母さんの横顔ばかり見てたっけ。それが、幼稚園の年小の時だった気がする。

「久しぶりに、行ってみない?」

 働き始めて2カ月経った休みの日、リビングのソファでのんびりしていたら、お母さんがこんなことを言い始めた。

「お母さんの友達、人形劇をやってる子がね、チケットをくれたのよ」

「そ、そうなんだ……」

「どうする?」

社会人になる前の私なら、いろいろと理由をつけて断っていたと思う。でも、

「行ってみようかな」

 今回はなぜかむしろ行ってみたくなった。

 約15年ぶりの、とらまるパペットランド。前に来た時も、こんな晴れた日だったな、なんてぼんやり思い出した。

お母さんの友達の人形劇までは少し時間があったので、人形劇ミュージアムにも行ってみることにした。

入ってみて、びっくりした。あの頃は一つ一つが怖かったのに、今はそれぞれがかわいく思う。どうしてあんなに怖かったんだろう? どこからどうやって、どんな人がどんな想いで作ったのか、想像していたら一日中でもいられそうだ。

「楽しそうじゃない」

 お母さんが私の顔を覗き込む。

「うん、すっごく楽しい」

 なんでこんなに楽しいのか。もしかして、手袋職人見習いになったからかな。人が作ったものへの見方が、ぐっと変わったんだ。これまでだって、手作りのものを見てすごいと思ったことは多かったけれど、今は職人の端くれだからその大変さがよりわかるようになったのかもしれない。

「子どもの時は、あんなに怖がってたのにね」

 お母さんの意地悪な声に、私は振り返った。

「えっ、気付いてたの?」

「そりゃあ、あれだけお母さんにぴったりくっついてたらねぇ」

 ここは、怒るところなのかもしれない。でも、気が付くと私も笑ってた。あの時は受け止められなかった人形一つ一つの存在感を、今は目一杯おもしろく思えるほど私も大人になったんだ。

「また来ようかな」

 私のつぶやきに、お母さんはクスリと笑った。 

「佩」とは

佩(ハク)とは、江本手袋が「喜び合える手袋づくり」を目指して取り組む手袋ブランドです。

職人を守り育て、地域の手袋づくり文化を未来へと受け継いでいくために、扱う素材、デザインの考え方、色展開、つくる量、手袋職人の社会的地位、そして地域との関係性など、これまでの手袋づくりの全てを見直しました。

江本手袋に勤める65歳の職人は、中学卒業からずっと手袋を作り続けています。

佩は、このような本物の職人たちの手仕事をお届けします。

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