探しもの
「どうしたの、こんなにちらかして」
私の声に、お母さんは寝室をぐるっと見回す。
「ど、どうしたんだろう……」
「またー?」
こんなことは、今までもあった。本人は片付けているつもりなんだろうけど、余計にクローゼットの中のものを引っ張り出してしまい、収拾がつかなくなっていた。もう随分と前に誰かから送られてきたお菓子の空箱やきれいなリボンなど、私が小学生の頃だったら工作に重宝したであろうものがあっちにもこっちにも転がっている。
「何を探してたかわかんなくなっちゃった。でも、前に探してたものは見つかったのよ」
お母さんはそう言って、新婚旅行で行ったというイタリアのポストカードを満足げに見つめた。
「お母さん、お腹すいたんだけど」
「あら、もうそんな時間なのね」
「そろそろお父さん、帰ってくるよ」
「真帆、春休みなんだから手伝って」
お母さんはごったがえした寝室をそのままに、部屋を出た。
来月から、私は高校生だ。受験の時は家のことを右にも左にも動かさなかったしなぁと、私もお母さんの後をしぶしぶついていこう……とした時、あるものに目が留まった。
それは、ストールだった。ちょっとくすんだブルーで、私が好きな色。こんなの、お母さん持ってたんだ。
「お母さーん、これ、もらっていいー?」
階段に向かって叫ぶと、お母さんは「これ」が何かわかっていないはずなのに「いいよー」という大声が一階から返ってきた。
私はやったと心の中でつぶやき、ストールを手に取った。たまにこういうことがあるから、お母さんの整理整頓という名の「引き散らかし」も私にとっては悪くない。
それから数日後のこと。
親友の玲奈と遊ぶ約束をしていたので、今は着ていく服を選んでいる。来月から玲奈とはちがう高校に通うことになる。高校に入ったら、いろいろと忙しくてこれまでみたいには会えなくなるし、今のうちにたくさん思い出を作っておきたい。
「このストール、していきたいけどな……。でも、まだ寒いからマフラーの方がいいかな?」
こんなことをぶつぶつつぶやきながら、マフラーとストールを交互に首に巻き付けては姿見を覗く。でもやっぱり、新しく手に入ったものは早く使いたい。
玄関を出ようとすると、奥のリビングのドアからお母さんがひょこっと顔を出した。
「いってらっしゃーい。って、そのストール!」
「昨日、もらっていいって言ってたのだよ」
「それそれそれ! お母さん、それを探してたのよ!」
お母さんの声を背に、私はサッと靴をはいた。これはもう、私のものだもんね。
「いってきまーす!」
空はこのストールみたいなブルー。気持ちの良い風が、首筋をサラッとなでてった。