ハンドソックス友達
「その手袋、いいですね」
そう話しかけてくれたのは、娘と同じ保育園の結衣ちゃんのママだった。
日曜日の午後2時。近所の公園は人であふれ返り、親達は木陰から子ども達を見守っていた。
「ハンドソックスっていうんです。日焼け対策にもなるんですが、こうやって指先を伸ばすと、エレベーターのボタンとか触らなくていいから便利なんですよ」
結衣ちゃんのママは「なるほど」と小さくため息をついた。
初めての会話なのに、こんなに熱く話さなくてもよかったかな。でも、これは最近買った自分へのご褒美で、つい言いたくなってしまったの。
私には、ママ友という存在がいなかった。フルで働いていることもあり、保育園のお迎えでさえ母にお願いしている始末だ。娘とゆっくり過ごせるのは日曜日くらいなので、決まって行きたがる公園には毎回付き合うことにしている。
ママ同士が集まって楽しそうにしゃべっているところ、私はいつも一人だった。娘のために来ているんだからと自分に言い聞かせても、寂しくないと言えば嘘になる。結衣ちゃんのママが声をかけてくれて、このアームカバーをしてきてよかったと思った。
「私も、けっこう気にするタイプなんです。電車の吊り革とかも、最近じゃあんまり握る気になれなくて」
それから私達は、友達になった。もちろんきっかけは子ども同士が同じ保育園ってことだけれど、仕事のことや趣味の話で盛り上がった。ママ友って、できたらできたでどういう距離感を保てばいいか心配していたのよね。でも、結衣ちゃんのママ……麻衣さんとはそんなこと気にしなくてもすぐに仲良くなれた。きっと、最初にしゃべったのが子どものことじゃなかったからかもしれない、とも思う。
「円花さん、子ども達がもうちょっと大きくなったら、いっしょに旅行しない?」
今日も私達は公園に来ている。麻衣さんとは、すっかり名前で呼ぶ仲になった。
「いいね。香川とかどう?うどん食べて、骨付き鳥食べて……江本手袋さんにも行ってみよっか」
「私、冬用のオレンジの手袋、見たいんだよね」
そう言った麻衣さんの腕には、私と色違いのハンドソックス。友達同士でおそろいって、学生時代に戻ったみたいで何だか照れ臭いけど嬉しいものだ。
「ちーちゃんのおばあちゃんの手袋は、ピンクなんだよ」
そう言いながら走ってきた娘の千尋は、ドロドロの手をパッと開いて見せた。
「私もピンクの手袋、ほしいなぁ」
結衣ちゃんの手も真っ黒だ。
「手、洗いに行こっか」
私と麻衣さんは顔を見合わせ、ハンドソックスをグイっとたくし上げた。