VOL .46

帰省

夏休み、久しぶりに東かがわ市に帰ってきた。

 「帰省」なんて、テレビのニュースで見てもピンときていなかったのに、まさか自分もすることになるなんてね。

 たった5ヵ月ぶりなのに、自分の部屋のベッドシーツの柄でさえ、懐かしく思えてしまうんだから不思議だ。

「早苗、どれくらいこっちにいられるの?」

 仕事から帰ってきたお母さんは、そう言ってすぐにエプロンをかけ、キッチンに立った。

1週間くらいかなぁ」

「短いなぁ」

 お父さんは、今日は調子がいいらしく、リビングのいすに腰掛けてテレビを見ている。

「大学の課題もあるし、バイトがあるから」

「そうよね」

「そうだよな」

 こっちを見ないまま、二人は同時にそう言った。

 大学生になってから、両親とは3日に一度は連絡を取り合っている。でも、動画通話することはほとんどないし、したとしてもこうして後ろ姿や横顔を見ることなんてない。

 帰省中、やりたいことはたくさんある。

 まず、親友の海香子と会いたい。どっちかの家でお菓子でも食べながら近況報告して、ひたすらゴロゴロしたい。高校時代の友達と海でバーベキューもしたいな。そういえば、中学の時の友達がミニ同窓会するとかも言ってたっけ。あとは、おばあちゃんちに行って……って、こんなに予定を詰め込んでたら、ほとんど家にいられないな。

 数日後、私は海香子の家にいた。

「次に帰省するのはいつになるの?」

「うーん、冬休みかな。年末とか?」

「早苗、このままあっちで就職したりしたら、帰省するのは一年に1回とか2回とかになるのかな……」

「そんなこと……」

 ない、とは言い切れなかった。

「じゃ、帰省するのはあと200回くらいかな」

 私の冗談に、海香子は「えらい長生きするね」と返すもんだから、思わず吹き出した。

 笑ってたら、両親が頭に浮かんできた。

 うちのお父さんは、私が中学の時に病気になって働けなくなった。でも、お母さんが看護師に復帰して、しょっちゅう夜勤もして学費を稼いでくれた。

「海香子の働いてる手袋屋さん、明日って開いてる? お父さんとお母さんに手袋買いたいんだ」

「開いてるけど、真夏に? 手袋職人見習いとしてはありがたいけど」

「うん、今年は寒くなる時にいっしょにいられないからね」

 だから、今しかないんだ。私がバイトしてもらったお金で買ったものを、両親に持っていてもらいたい。

 翌日、私は海香子の工房を訪れた。

 奥で海香子は、真剣な面持ちでミシンの前に座っている。

 静かな店内。黙々と手袋を選ぶ。

「それにするの?」

 気が付くと、海香子が隣にいた。

「オレンジとネイビー、早苗のお父さんとお母さんのイメージにぴったりだね」

「だよね」

 今日の晩ご飯は私が作るんだ。一人暮らしで鍛えた腕をふるって、そして、この手袋をそっと渡そう。どんな顔をしてくれるかな。

 あと何回帰省できるかなんて、考えなくていい。

帰る度に、チャンスにするんだ。

「佩」とは

佩(ハク)とは、江本手袋が「喜び合える手袋づくり」を目指して取り組む手袋ブランドです。

職人を守り育て、地域の手袋づくり文化を未来へと受け継いでいくために、扱う素材、デザインの考え方、色展開、つくる量、手袋職人の社会的地位、そして地域との関係性など、これまでの手袋づくりの全てを見直しました。

江本手袋に勤める65歳の職人は、中学卒業からずっと手袋を作り続けています。

佩は、このような本物の職人たちの手仕事をお届けします。

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